前回の続きです。
親と同居していてその死亡後相続財産をひとりで独占している前回の長男の例で考えていきます。
親の死亡後,親の財産全部を長男は自分のものとして独り占めにしていたわけではないと思います。いずれ他の相続人と分ける必要は理解していて,当面自分が親の相続財産として管理するつもりでしょう。このような所有の意思を持たない占有を他主占有と呼んでいます。
相続開始後の長男の遺産の占有は他主占有であって,取得時効の条件のひとつである所有の意思のある自主占有ではないことになります。したがって,相続後何年が経過しようが事情に変更がない限り,長男の占有は他主占有のままであり,取得時効によって親の相続財産を時効取得することにはなりません。相続の開始時から自主占有が認められるのはきわめてまれで,特殊な事情がある場合に限られます(注1)。
時が流れこの長男が死亡して長男の相続人に長男が管理していた相続財産が引き継がれたときにはどう取り扱われるのでしょうか。管理している相続財産(家と田畑)は管理している相続財産として長男の相続人が相続することになります。
長男の相続時の他主占有が自主占有に占有の性質が変わるためには他の相続人にこの占有している財産は自分のものであり,他の相続人のものではないと主張する必要があります。あるいは,新たな権限によってその財産を自分のものとして使い始める必要があります。こうしたことを自主占有への転換と呼んでいます。これはなかなか難しく実際的に相続の自主占有への転換は一般的には困難ではないでしょうか。(注2)。
結論。相続人のひとりが相続財産を独占して占有していても,他の相続人がその相続財産を取得時効によって失うことは通常はないといっていいでしょう。
完
(注1)最高裁判決昭和47年9月8日。家督相続がある時代の長男という特殊な事例。
(注2)最高裁判決平成8年11月12日。民法186条1項の所有の意思の推定規定の適用を,他主占有者の相続人の新権原による自主占有の主張には否定した事例。
成年後見・任意後見はこちらの業務内容
055-251-3962 090-2164-7028
困り事や相続・遺言のご相談,許認可のお問い合わせは