寄付したのは鳥原さんの長女で、2011年に79歳で亡くなった宮崎市の前田輝子さん。独り暮らしで、親族に「母から受け継いだ財産を古城小に寄付したい」と伝え、書き置きも残していた。
相続の対象になる親族がいなかったため、前田さんの思いを実現しようと相続財産管理人が2月、市に寄付を申し出た。市は、手続きを経て5月に寄付を受けた。
全国初の女性小学校長、遺族が5800万円寄付 : 教育 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
寄付したのは全国初の女性小学校校長ではありません。その校長の長女が寄付したという記事なのです。すこし紛らわしい見出しです。
書き置きで自分が亡くなった後財産を寄付(遺贈)できるか調べてみました。
1.書き置きは遺言といえるか
遺言の方式は民法でしっかり決まっています。その方式に従わないものは効力はありません。
たとえば,自筆証書遺言は遺言者が
①全文
②日付
③氏名
を自書して,これに
④印
を押さなければなりません。
書き置きは民法が決めた方式ではありませんので,遺言書としての効力はないことになります。
2.遺言がないときの相続
①遺言がないときにはまず法定相続人が相続します。
②相続人がいるかいないかはっきりしない場合や,この記事のように相続人がいないと思われる場合には相続財産管理人が家庭裁判所によって選ばれます。
③相続財産管理人は亡くなった人に本当に相続人がいないかを公告することによって調査します。
④調査によっても相続人がわからない場合には,亡くなった人に借金があればそれの支払いをおこないます。
簡単に言えば,亡くなった人が支払わなければいけない借金や債務を清算します。その結果,財産が残る場合があります。
3.生産後の残余財産の取扱い
原則として,その余りは国の財産になります。
4.特別縁故者(例外)
ただし,特別縁故者がいる場合には家庭裁判所は清算後の残余財産をその特別縁故者に分与することができます。残余財産の全部を与えるか,その一部にするか,あるいは与えないかは,裁判所の判断にまかされています。
特別縁故者とは
①亡くなった人と生計を同じくしていた人
②亡くなった人と療養看護に務めた人
③その他亡くなった人と特別の縁故があった人
をいいます。
今回の記事にある宮崎市は「③の亡くなった人と特別の縁故があった者」だと家庭裁判所が判断したものと思われます。過去に類似のケースがあり,そこでも地方公共団体を特別縁故者と認定しています。
「被相続人が長年居住し,方式不備のため無効な遺言ではあるが,遺産を同市における老人福祉事業に充てて欲しいと意図としていた」として,居住市を特別縁故者と認定した大阪家庭裁判所の審判例(昭和42年)があるようです。
5.残余財産の請求
特別縁故者は家庭裁判所に自分から家庭裁判所に請求する必要があります。
この記事では,相続財産管理人が寄付を申し出たとなっていますが,正確な表現ではありません。市が家庭裁判所に特別縁故者として残余財産の請求をおこなうという流れになるのではないかと思います。
6.まとめ
今回の記事のケースでは,たまたま法定相続人が存在していなかったため,特別縁故者として宮崎市を家庭裁判所が認定をおこなった。
結果として,書き置きが遺言書のような役割を果たしたといえます。
もし,宮崎市に間違いなく寄付をしたいと希望するのであれば,民法の定めた方式に従った遺言書を残すことが適切な行動であろうと思います。
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