父が亡くなって遺産分割をしたいのだが,母親が認知症だということはよく起こります。特に,目先不動産をどうしても処分しなければならない事情があるときには悩んでしまいます。 遺言がない場合には,遺産分割協議をしなければなりません。この協議は法定相続人全員が納得しなければ効力がありません。また,協議に参加するためには意思能力,行為能力がなければなりません。母親が認知症だと言うことは意思能力の点で問題あります。 今回は,母親にすでに後見人等がついている場合について考えてみたいと思います。 後見人等がついていない場合,後見等の申立てをしない場合については,別に取り上げるつもりです。
1.後見人等の種類
意思能力が認められない,行為能力が不十分である場合に,本人を支援する後見制度が設けられています。後見,保佐,補助の三類型です。
それぞれの類型について遺産分割との関わり合いを見ようと思います。
*意思能力 「自分の行為の結果を正しく認識し,これに基づいて正しく意思決定をする精神能力」
*行為能力 契約などの法律行為を単独でできる資格,制限行為能力者とは成年被後見人,被保佐人,被補助人,未成年者のことです。
2.成年後見人
①成年後見人は遺産分割の協議に参加できます。
②成年後見人が相続人であるときには,その成年後見人は被成年後見人と利害が一致しませんので遺産分割に参加できません。
ア 後見監督人がいる場合には遺産分割協議には成年後見人の代わりに遺産分割協議に参加します。
イ 成年後見人がいない場合には,成年後見人は,家庭裁判所に特別代理人の選任を申し出なければなりません。特別代理人が遺産分割の協議に参加することになります。
3.保佐人
①遺産分割協議には相続人である被保佐人が参加できます。ただし,その協議の内容について保佐人の同意が必要となります。
②保佐人が相続人であるときには,その保佐人は被保佐人と利害が一致しませんので遺産分割協議の内容に対する同意を与えることができません。
ア 保佐監督人がいる場合には遺産分割協議の内容への同意を保佐人の代わりに同意を与えることができます。
イ 保佐監督人がいない場合には,保佐人は,家庭裁判所に臨時保佐人の選任を申し出なければなりません。臨時保佐人が保佐人の代わりに遺産分割協議の内容に同意を与えることになります。
4.補助人
補助開始の審判のときに,遺産分割をすることについて補助人の同意が必要であるという旨の審判がなされたときには補助人は遺産分割協議の内容について同意権を持ちます。
①遺産分割協議には相続人である被補助人が参加できます。ただし,その協議の内容について補助人の同意が必要となります。
②補助人が相続人であるときには,その補助人は被補助人と利害が一致しませんので遺産分割協議の内容に対する同意を与えることができません。
ア 補助監督人がいる場合には遺産分割協議内容への同意を補助人の代わりに同意を与えることができます。 イ 保佐監督人がいない場合には,保佐人は,家庭裁判所に臨時保佐人の選任を申し出なければなりません。臨時保佐人が保佐人の代わりに遺産分割協議の内容に同意を与えることになります。
5.まとめ
父の相続にあたって,認知症の母(父からみると妻)にすでに後見人等とうがついている場合には,原則としてその後見人等が遺産分割協議に参加したり,同意をします。ただし,後見人等と母との利害が一致しないときには特別代理人,臨時保佐人,臨時補助人が必要となります。
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