1.遺言をするときの財産処分の表現
遺言の中心的な内容である「死亡後の財産処分」の表現にはいろいろ考えられます。「・・・を与える」「・・・を残す」「・・・をあげる」「・・・を譲る」などその表現は多様です。しかし,遺言者の書き方を指南する本では「相続させる」,「遺贈する」のふたつの言葉以外は使われていないと思います。
2.「相続させる」と「遺贈する」の使用方法
(1)相続させる
推定相続人に遺産を残すときに使う表現です。推定相続人とは,遺言を書いている時点で自分が死亡したとき,相続人となる人のことをいいます。
参考ブログ記事:「法定相続人と推定相続人,同じようで同じではない。」
(2)遺贈する
推定相続人以外人に遺産を残すときに使う表現です。
3.具体例
Aが遺言を書きます。そのとき,Aには子どもBがひとりと孫C(Bの子)がおり,CはAと養子縁組は結んでいないとしましょう。
○甲土地をBに相続させる。
○乙土地をCに遺贈する。
遺言作成当時,Bは推定相続人ですが,CはBが健在ですから推定相続人ではありません。したがって,上記のような財産処分の表現を遺言中に使用します。
4.「相続させる」と「遺贈する」の効力の違い
相続させると旨の遺言は「遺産の分割方法として,このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にする」効果を持ちます。遺産分割効果説とよばれています。それにともない,遺贈するとする遺言との間に次のような効力の差が生じます。
最高裁の判例
概要:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52445
全文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/445/052445_hanrei.pdf
(1)所有権の移転手続における登記
遺産が不動産のとき
「遺贈する」の遺言 ほかの共同相続人と共同申請をする必要があります。
「相続させる」旨の遺言 受益者(もらった相続人)が単独で登記申請ができます。
(2)農地法3条の許可
遺産が農地のとき
「遺贈する」の遺言 農地法の許可が必要です。
「相続させる」旨の遺言 農地法の許可は不要です。
(3)賃貸人に承諾の要否
遺産が借地権または賃借権のとき
「遺贈する」の遺言 賃貸人の承諾が必要です。
「相続させる」旨の遺言 賃貸人の承諾は不要です。
(4)第三者に対する対抗要件としての登記
「遺贈する」の遺言 第三者に自分の権利を主張するには登記が必要です。
「相続させる」旨の遺言 第三者に自分の権利を主張するにも登記は不要です。
5.まとめ
遺言を書くときにおける推定相続人に対しては「相続させる」を使い,推定相続人以外人に対しては「遺贈する」を使います。
推定相続人以外人に対して「相続させる」を使った場合には,以後の内容を解釈して「相続させる」は誤りであって「遺贈する」が遺言者の真意であると解釈される可能性は高いのではないかと思われます。逆に推定相続人に「遺贈する」を使用するとそのまま「遺贈」と額面どおり原則受け取られます。
間違えるのであれば,本来「遺贈する」とするべきところを「相続させる」とするほうが実害は少ないのではないかと思われます。
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