認知症の人が電車の軌道に入り込み死亡。その鉄道会社から妻が賠償金を請求された事件がありました(認知症徘徊訴訟)。
最近佐世保で起きた事件,女子高校生がその友達を殺害し解剖したというもの。この事件では親権者としての父親に損害賠償がされるだろうと思います。(佐世保女子高校生殺害事件)
いずれの事件でも損害賠償を受ける当事者が後見人であっても同じことがいえるわけです。最初の事件では妻の代わりに「成年後見人」,後者の事件では父親の代わりに「未成年後見人」の責任が問題になります。そこで,後見人の責任,とくに保護・支援している本人(被後見人)が他の人に与えた損害の責任を考えてみたいと思います。
1.後見人の責任
後見人の責任はふたつの側面があります。
(1)被後見人に対する責任
被後見人の支援をしていくなかで,被後見人の財産などに損害を与えたときには,当然に被後見人に対して損害を償う責任があります。(民法709条)
(2)被後見人が損害を与えた第三者への責任
被後見人が他の人に与えた損害の責任については,直接に損害を与えた被後見人は責任を負う必要はありません。(民法712条,713条)。 そのかわりに,被後見人を監督する立場にある後見人が,第三者にくわえられた損害の賠償をする責任が発生します。(民法714条)。
2.後見人が負う監督義務者としての責任の性質
後見人が負う第三者に対する責任は無過失責任主義的な側面があります。また,責任無能力者である被後見人の加害行為による損害についての代替的な側面もあります。
過失があろうがなかろうが監督者としての責任を追及され,本人に替わって監督者が損害額を賠償する必要があるということになります。
具体例として,「責任無能力者の行為によって火災が発生した場合において,監督義務者が火災による損害を賠償するべき義務を負う。ただし,失火責任法との関係で責任無能力者の監督について重大な過失がないときには責任を免除される」という判例があります。(平成7年1月24日最高裁判決 www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52491)
佐世保の事件では,本人は高校生で目安である12歳をかなり過ぎていますので,責任無能力者ではないと判断される可能性が強いと思います。その場合でも,監督義務者としての不法行為の責任を問うことができるとされています。未成年者の場合には,その者の責任能力の有無にかかわらず,親権者や未成年後見人が損害賠償責任を免れることはできません。(昭和49年3月27日最高裁判決 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/072/052072_hanrei.pdf)
3.まとめ
成年後見人であれ未成年後見人であれ,後見人になることは,支援をする相手である成年被後見人・未成年者が引き起こす第三者に対する賠償責任を背負い込むことになります。そして,その額によっては後見人自身が破産せざるをえないことも出てきます。
後見人になろうとする者は責任無能力者の監督義務者の責任について留意する必要があるといえます。 参考ブログ: 後見人の損害賠償責任は場合によっては高額 認知症の親の介護で自己破産? 高齢の妻に認知症の夫の監督義務を認定
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