遺言書の作成のお話をしますと,必ずといっていいほどワープロで書いてもかまいませんかという質問が出ます。 自筆証書遺言ではワープロ書きは認められていませんと,答えますと不満げな顔をされ,なんという時代遅れなことを言うのだと抗議をされる方もいます。
今回は遺言の方式の概要と秘密証書遺言についてみてみます。 遺言は要式行為です。要式行為というのは法律に定められた方式に従わないとその法律行為が不成立になったり,無効になったりします。ですから,遺言が法律に定められた方式に従っていない場合にはその遺言は効力がないということになります。
1.遺言の方式(民法967条)
以下に書きます各方式の種類ごと,詳細な手続方式がさらに定められています。
(1)普通の方式
いずれか自分の好きな方法で遺言をします。 ①自筆証書による遺言(民法968条) ②公正証書による遺言(民法969条,969条の2) ③秘密証書による遺言(民法970条,972条)
(2)特別の方式
緊急時遺言
①一般危急時遺言(死亡の危急に迫った者の遺言 民法976条)
②難船危急時遺言(船舶遭難者の遺言 民法979条)
隔絶地遺言
①一般隔絶地遺言(伝染病隔離者の遺言 民法977条)
②船舶隔絶地遺言(在船者の遺言 民法978条)
2.秘密証書による遺言(民法第970条,971条,972条)
ワープロ書きが許されているのは普通方式のうちの秘密証書遺言だけです。
(1)秘密証書遺言の手順
①遺言者が遺言内容を書いた物(遺言証書)に署名して押印。
②遺言者がその証書を封筒に入れ,証書に押印した印鑑で封印。
③遺言者が公証人1名・証人2名以上の面前で「書証が自分の遺言書であること,書証の筆者の氏名および住所」を申述。
④公証人がその証書が提出された日,遺言者の申述を封紙に記載。その後,遺言者,公証人,証人が各々その封紙に署名・押印。
(2)秘密証書記載の注意点
①遺言証書の作成は,遺言者本人が書かなくてもよい。代筆でも可。
②ワープロ・タイプライター・視覚障害者用点字器などを使用することも可能。
③日付の記載はなくてもよい。
④遺言者による証書への署名・押印は必ず必要。
(3)秘密証書遺言の手続における注意点
①公証人と2名以上の証人が必要。
②遺言証書を封じた後の封印は遺言証書に署名・押印したその印鑑を必ず使用。
③ワープロなどで作成した遺言証書の筆者とは,ワープロなどの実際の操作者のこと。(平成14年9月24日最高裁判決 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=76099)
④自署・押印の押印については他人にさせてもよいが,署名は必ず自署。
⑤口がきけない者の申述の手続は通訳者かその旨の辞書による(民法972条の特則)。
(4)秘密証書遺言の長所と欠点
①長所
ア 遺言の内容をできるだけ秘密にできる。
イ 字が書けないために自筆証書による秘密裏の遺言ができない場合でも,自分の名前さえ書ければ 秘密の遺言ができる。
ウ 秘密証書による遺言の方式が欠けている場合でも,自筆証書による遺言の方式を満たしていると きには,有効な自筆証書遺言として取り扱われる。
②欠点
ア 公証人,2名以上の証人が必要となり,費用もかかる。
イ 遺言者が死亡したときに遺言書の検認を受ける必要がある。
ウ 公証人役場には作成記録が残るだけで,正本・謄本などとして遺言書が保管されない。そのた め,紛失には対応できない。
3.まとめ
遺言の普通の方式において遺言書を自分で書かなくてよい遺言の方法は,公正証書による遺言と秘密証書による遺言です。遺言内容を秘密にしたいと考えるときには秘密証書遺言によります。
字を書くのが苦手であったり,遺言の内容が膨大で手書きをする気が起きないが,遺言の内容をどうしても秘密にしておきたいということもあります。その場合には自筆証書による遺言は適当ではありません。そうしたときには,ワープロで遺言証書を作成して,秘密証書による遺言を検討することが可能です。
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