奥さんだけでなくても,認知症の方が家族にいる場合は,先ずは遺言書をお作りになることをお勧めします。 今回はそのことを考えてみたいと思います。
1.遺言書の有無による相続手続の違い
遺言書があるかないかによって,本人が亡くなった後の遺産相続の手続が代わってきます。
(一)遺言書がある場合の相続
遺言書がある場合は,遺言書にしたがって遺産を分割すればよいので,遺留分の侵害がない限り,相続はスムーズに進みます。 遺言書に遺言執行者が定めてあれば,さらに相続は遺言にしたがってスムーズに執行されます。
(二)遺言書がない場合の相続
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。もし相続人がひとりでも遺産分割協議に参加していない場合は,その遺産分割協議は無効です。全員がそろったところで,やり直す必要があります。
また,遺産分割協議に参加する相続人に認知症などで意思能力を欠いたり,行為能力を制限されている人がいる場合は,本人ではなくその人の法定代理人が遺産分割協議に参加しなければなりません。
次に挙げる人については,本人の代理をする者や本人に同意を与える者が必要です。そうしないと,遺産分割協議が無効になったり,取り消されたりします。
①認知症の人など
②成年被後見人
③被保佐人
④被補助人(遺産分割協議に補助人の同意が必要と審判された人)
⑤被任意後見人
⑥未成年者
⑦行方不明者
2.認知症の人が家族にいる場合の相続手続
認知症の家族に成年後見人などの法定後見人がすでに選任されてその支援を受けている場合と,法定後見人の支援を受けていない場合とがあります。
(一)法定後見人等がいる場合の相続手続
法定後見人等(成年後見人,保佐人,補助人,任意後見人)は被後見人等を代理したり,同意したりして遺産分割協議に参加します。 代理・同意の遺産分割協議の判断基準は法定相続分を十分考慮することです。端的に言えば,法定相続分は最低限確保することが必要になります。
(二)法定相続人等がいない場合の相続手続
認知症の相続人は,遺産分割協議に参加することに,制限を受けます。この場合の相続手続は,次の相続手続手順を踏むことになります。
①認知症で判断能力を失った人は成年後見人を家庭裁判所で選任してもらわなければ,遺産分割協議を始めることができません。
②家庭裁判所で選任された成年後見人は,遺産分割協議に参加します。成年後見には法定相続分を確保する必要があります。
3.認知症の人が家族にいる場合の遺言の効用
①家庭裁判所で法定後見人等の選任を受ける手間が省けます。
②一度開始した法定後見は遺産分割協議終了後も続けなければなりませんが,その不都合を避けることができます。
③認知症の家族の相続分を法定相続分に拘束されることなく,そこの家庭にとって望ましい遺産分割の割合にすることができます。
4.まとめ
家族の中に認知症の人がいる場合には,
①法定後見の申し立てなどの手間が省ける。
②遺産分割が法定相続分に拘束されない。
ために,遺言書を作成しておくことが賢明です。
それも,遺言者自身が認知症にならない前に,急いで遺言書を作成するべきです。なぜなら,認知症になってしまうと,遺言書を作成することは事実上難しくなってしまいます。
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