1.任意後見契約における予備的受任者の定め
(1)予備的受任者
予備的受任者とは,先順位の任意後見人が何らかの理由で任意後見の仕事ができなくなった場合に備えて,先順位の任意後見人に替わって任意後見の仕事をすると定められた次順位以降の任意後見受任者のことです。
たとえば,任意後見人が甲・乙の複数いる場合,第一順位の任意後見人を甲として,第二順位の任意後見人を乙とするというような任意後見契約が結ばれたとします。そのときの乙を予備的受任者といいます。
(2)予備的受任者が必要とされる場合の例
第一順位の任意後見人甲が病気になったり,死亡したりして,任意後見人のしごと(後見事務)ができなくなった場合に,第二順位の任意後見人受任者である乙が任意後見監督人選任の申立をおこないます。
家庭裁判所の乙の任意後見監督人の選任の後,甲に替わって乙が任意後見人として任意後見事務を行います。
2.予備的受任者についての特約
(1)任意後見人の順位付け登記の可否
現行の後見登記法には,任意後見人の順位づけ目的とする予備的な任意後見契約の登記をする規定がありません。
したがって,甲乙の両者を同列・同順位の受任者として,任意後見契約を結ぶしかありません。
(2)実務上の工夫としての特約
次の手順によって準備的任意後見契約を結びます。
①任意後見契約の委任者は,甲・乙それぞれと任意後見契約を締結します。
②委任者と乙との間の任意後見契約には以下の特約を定めておきます。
特約の例
「なお,委任者と乙間の契約は,甲の死亡又は病気等により,甲の任意後見人としての職務の遂行が不可能若しくは困難となった時に,乙が家庭裁判所に対し,乙について任意後見監督人の選任の請求をするものとし,任意後見監督人が選任された時からその効力を生じる。」
(3)予備的任意後見契約の特約の効力
上記特約の例に掲げた予備的受任者であること,予備的受任者の任意後見監督人選任請求時期に関する特約は,登記することはできません。
この特約に反して,乙によって家庭裁判所に任意後見監督人選任の請求がなされた場合に,家庭裁判所は特約を考慮することはありません。家庭裁判所は特約に拘束されません。
(日本公証人連合会『新版 証書の作成と文例〔全訂家事関係編〕(立花書房・2005)p.111)
(4)特約の実務上の意義
予備的任意後見契約の特約は,契約者当事者間では効力を生じ,契約者当事者間を拘束すると解釈することは可能です。
先ほどの例で言えば,任意後見契約の委任者と受任者乙との予備的任意後見契約は有効です。
受任者乙は,先順位受任者である任意後見人甲の死亡・病気等により後見事務が執務不能となった場合にかぎり,任意後見監督人選任の申立てをする権利があることになります。
3.まとめ
予備的任意後見契約の特約は登記することはできず,裁判所を拘束することはできません。しかし,契約者当事者間を特約によって拘束しているという解釈も可能です。
任意後見受任者は,十分信頼できる方にすることが重要です。また,任意後見受任者はできれば委任者より年齢が若い方が適任といえます。
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