1.相続財産の一部を相続したいという要望の時代背景
土地や建物が資産価値を持ち,相続財産の元凶とみられていた時代もありました。
時代は変わり,土地や建物が維持管理費だけがかかり,売りに売れないマイナスの相続財産であるという認識が広まってきました。とくに,地方の古い家屋は借り手もおらず,管理費のみがかさむという現実があります。また,解体するにしてもその費用は相続する者に重くのしかかります。
そんなお荷物になる相続財産はいらない,預金や現金など管理の必要のない財産だけ欲しいという気持ちになるのは自然の流れです。
2.相続の仕方は三種類
相続の方法は法律で三種類のみに限定されています。それ以外の方法は認められていません。単純承認,限定承認,相続放棄の三種類です。
(1)単純承認(民法920条)
無条件で相続財産を相続する方法です。
プラスの財産もマイナスの財産もすべてひっくるめて無条件で相続します。何もしないとこの単純承認をしたものとして扱われます。
裁判所に申し出る必要もありません。
(2)限定承認(民法922条)
条件付で相続財産を相続する方法です。
プラスの財産からマイナスの財産を引いて,プラスの財産が残ればその財産を相続し,プラスの財産が残らなければ相続をしないという方法です。プラスがあれば相続し,マイナスであれば相続しないという方法です。
相続人の全員が同じ方法の選択をしなければなりません。家庭裁判所へ申し出る必要があります。
(3)相続の放棄(民法938条)
相続をしない方法です。
プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続しないことになります。この方法を選択するとこの相続においては最初から相続人でなかったとみなされます。この相続に関して一切無関係となります。
この方法を選択するには,相続人各自で家庭裁判所に申し出る必要があります。
3.一部相続放棄
(1)一部相続放棄の誤解
一部の財産だけを選んで相続できるのではないかという誤解は,たぶん上記の限定承認の制度と相続の放棄の制度を合体して考えてしまったための誤解ではないかと思われます。
限定承認では相続するかしないかを選択できるという側面があります。また,相続の放棄はいらないものを放棄することができるという側面があります。両者を合体すれば,希望する資産だけを相続し,不要な資産は相続の放棄をすることができるという話に流れていきます。
(2)一部相続放棄の可否
一部相続放棄は認められません。
一部の相続財産を相続し,一部の相続財産を放棄するという方式は民法が認める3つの相続方法のいずれにも該当しないからです。限定承認の制度は相続人が都合のいい財産だけをつまみ食いすることを許す制度ではありません。
いずれの制度においても,相続財産を一括して相続するか,相続しないかのいずれしか選択の余地はないことになります。
(3)単独の相続人のみの一部相続
この場合でも理屈は同じです。一部の相続財産の相続つまり一部の相続財産の放棄は認められません。
自分一人が相続する権利があるのであるから,自分が欲しいものだけもらえばよいと考えてのことだとおもいますが,法律が定める相続の方法には当てはまりません。
4.まとめ
相続財産の一部を相続して,一部を相続しないということはできません。たとえ,自分だけが相続人で,他に相続人がいない場合でも変わることはありません。
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