前回と前々回において相続放棄と特定遺贈について考えてきました。
前々回:「 」
前回:「 」
今回は,相続放棄におけるモラルの問題,相続放棄後の財産管理の問題について考えてみます。
1.相続放棄におけるモラルの問題(詐害行為の取り消し)
消費者金融の借金が1000万円あり,預金が500万円ある父親が,預金を長男に遺贈する。相続が発生して,長男を含めたすべての法定相続人が相続を放棄する。長男は500万円の預金を手に入れることができるか。
遺贈と相続放棄は別の制度ですからこの例では長男は問題なく預金を手にすることができそうに思えます。しかし,それでは話がうますぎます。お金を貸した消費者金融は堪りません。
民法には詐害行為取消権(民法424条)という規定が設けられています。
債務者や利益を受ける者は,債権者をだますようなことをしてはいけませんという規定です。ここで挙げた例でいえば,父や長男は消費者金融会社に損を与えることを承知で遺贈したり,遺贈を受け取ることはできないということになります。
2.相続放棄後の財産管理(民法940条)
(1)遺産が動産・債権の場合
遺産が動産であれば時の経過とともにその価値は失われるでしょうが,とくに管理が必要というわけではありません。また,債権であれば時効で自然に消滅してしまいます。相続を放棄した元相続人が管理の責任を問われることはないでしょう。
いずれにしても第三者から責任を追及されることは考えにくいです。
(2)遺産が不動産の場合
遺産に不動産がある場合には,この財産管理責任がのしかかってきます。
相続を放棄した人は,その財産が他の人に相続できる状況になるまで,管理を続ける必要があるのです。
たとえば田舎の空き屋だけしか相続財産がないということで,相続放棄をしたとします。すべての法定相続人に相続放棄をされた相続財産であった空き屋のせいで事故が起きた場合には,相続放棄をした元相続人が賠償責任を負わなければならない恐れが生じます。
誰も相続人がいない相続財産は相続財産法人となります(民法951条)。本来であれば相続財産法人は財産管理人が選任され,その管理人が相続財産の生産に当たることが期待されています。
ところが,相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てるには予納金の納付が必要であるため,さして財産価値のない相続財産においては,財産の管理人のいない相続財産法人が相続財産を所有するという状況が続くということが起こります。
3.まとめ
いくら相続の放棄と遺贈の制度は別だとしても,自分の都合のいいものだけを受け取ることは容易ではないのは以上見てきたとおりです。
田舎の空き屋という相続財産は,負の財産価値しかないのかもしれません。<
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