1.おしどり贈与
20年以上夫婦であったものが相手に居住用財産を贈与した場合に、贈与税の計算において、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例があります。
国税庁ホームページ:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
また、おしどり贈与がおこなわれた場合、贈与の年に贈与した配偶者が死亡したときにも同様にこの特別配偶者控除が受けられます。
国税庁ホームページ:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452_qa.htm
2.特別受益の持戻し免除の意思表示(民法903条)
(1)特別受益
亡くなった人(被相続人)から生前に結婚や養子縁組のおり、また生計の元金として贈与を受けている相続人がいる。また遺贈(遺言による贈与)を受けている相続人がいる。
相続人が受けたこうした贈与を特別受益と呼んでいます。
(2)特別受益の持戻しによる遺産分割
相続財産の計算は次のよう順序で計算をします。
③で相続時の財産の価額に①を加えることを特別受益の持戻しと呼んでいます。
①被相続人の死亡のときに持っていた財産(相続開始時の財産の価額)
②特別受益の額
③相続開始時の財産+特別受益の額=みなし相続財産
特別受益の持戻しをして求めた「みなし相続財産」を法定相続分又は遺言にしたがって遺産分割協議をしていくことになります。
(3)特別受益の持戻し免除の意思表示
特別受益の持戻し(上記(2))をおこなって「みなし相続財産」を計算するのが原則ですが、被相続人の意思によって特別受益の持戻しをおこなわないとすることができます。
これを特別受益の持戻し免除の意思表示と呼び、遺言などによりこの意思表示をすることができます。
3.特別受益の持戻し免除の意思表示の推定(民法903条4項)
(1)特別受益の持戻し免除の推定規定の背景
2019年7月1日に施行される新民法にこの903条4項が追加されました。
税法ではすでに配偶者に対する特別な配慮として1.で説明した「おしどり贈与」の特別控除が認められていました。
これに平仄を合わせる形で特別受益の持戻し免除の意思表示の推定の規定が民法の相続法制に導入されました。
20年以上連れ添った夫婦が居住用不動産を相続する場合、特別の意思表示がされていないときには、特別受益の持戻し免除の意思表示がされたと推定(推測)されることになりました。
これにより配偶者が相続できる実質的な相続財産の額が増加することになります。
(2)特別受益の持戻し免除の推定が働く贈与等(贈与また遺贈)の条件
①婚姻期間が20年以上の夫婦間の贈与等
②贈与等の対象になる物は居住用不動産に限定
③遺贈または贈与(含む死因贈与)
※配偶者居住権が遺贈された場合にも適用されます。(民法1028条3項)
配偶者居住権についてはこちら
→「配偶者居住権」
(3)特別受益の持戻し免除の意思表示推定の効果
反証(そうでないと主張する者が証明すること)がない限り、持戻しによる計算をする必要はありません。
相続財産分割計算例
相続時財産:預貯金 6000万円
妻への贈与:居住用の家・建物 4000万円(相続時の評価額)
相続人:妻、子1名
この場合の妻・子の事実上の相続分
①特別受益の持戻した場合
6000万円+4000万円=1億円
妻:1000万円(5000万円-贈与済の居住用財産額4000万円)
子:5000万円
②特別受益の持戻し免除の意思表示が推定された場合
相続財産は6000万円
妻:7000万円(3000万円+贈与済の居住用財産4000万円)
子:3000万円
4.まとめ
20年以上の婚姻期間のある夫婦においては税法上の優遇だけでなく、遺産分割についても特別受益の持戻し免除の推定が働き実質上の相続財産受取額が増加するように民法の規定が改正されました。
なお、この制度が有効になるのは西暦2019年7月1日以降の遺贈または贈与に適用されます。
055-251-3962 080-6685-9886
困り事や相続・遺言のご相談,許認可のお問い合わせは
コメントをお書きください